アイロンとくせとり

アイロンで生地を伸ばし縮め、平らな布に身体の凹凸を作る。上着とズボンの、前身頃と後身頃それぞれの要領。

くせとりは、アイロンで生地を伸ばしたり縮めたりして、平らな布に立体を作る作業である。

身体には凹凸がある。平面の型紙どおりに裁った布をそのまま縫っても、凹凸には沿わない。膨らませたい箇所へは生地を追い込み、凹ませたい箇所からは外へ追い出す。こうすることで、ダーツを使わずに身体に沿った立体を作る。

以下で上着というときは、ジャケットとオーバーコートを指す。

何が起きているか

ウールは、高温と水分を与えたうえで力を掛けると変形する。冷めるとその形が残る。

生地の側では、縦地と横地の織りが歪む。直交していた糸の交わりを崩すことで、平面のままでは出せない形を作っている。

くせとりの際は、霧吹きや刷毛で生地に多量の水分を与える。

アイロンで生地を追い込んでいるところ。

上着の後身頃

肩甲骨・腰・臀部の3か所が要点になる。

箇所操作結果
肩甲骨肩甲骨に向けて生地を追い込む肩甲骨付近が膨らむ
腰回り外に追い出す腰回りが相対的に凹む
臀部内側に追い込む尻回りが丸みを帯びる

裁ち目を直線に戻すイメージで進めると分かりやすい。くせとりが済むと、後中心の線が身体に沿った曲線になる。

上着の後身頃。左がくせとり前、右がくせとり後。

後身頃を半分に折ると、折り線が腰でくびれた形になる。ダーツがそこにあるかのような形が、くせとりだけで作られている。

後身頃を半分に折ったところ。肩甲骨・ウエスト・ヒップの位置を示している。
くせとりを終えた後身頃。腰の位置が縮んでいる。

人台に着せると、身体の丸みに沿う。

後身頃を人台に着せたところ。

上着の前身頃

1950年前後の方法である(ドレープ型を除く)。

肩周り — 肩線を伸ばし、袖刳の肩先が浮くようにくせとりする。肩先が浮いて前肩に沿う。肩線の扱いは資料によって差があり、伸ばさないとするものもある。

脇線 — 若干伸ばす。ウエスト付近では外に追い出し、腰回りでは追い込んで縮める。縫製すると、腰回りがくびれたシルエットになる。

上着の前身頃。左がくせとり前、右がくせとり後。

上着の袖

山袖の内側にもくせとりをする。山袖の内縫い目は内側に回り込むため、その分の分量を確保しておく必要がある。

うまくいくと、袖の内側の折り目がきれいに弧を描く。

左が下袖、右が山袖。山袖の内側の縁にくせをとってある。
縫い上がった袖。内側の折り目が弧を描く。

ズボンの後身頃

箇所操作
後股上のあたり軽く伸ばす
折り目線のあたり軽くいせる

くせとりによって後折り目線が曲線になり、腰から脚のラインに沿う。

ズボンの後身頃。左がくせとり前、右がくせとり後。
くせとりの前後で、後折り目線の形が変わる。

参考文献

  1. 国内 木村慶市, 松原正巳 (1948) 『図解紳士服全書』 生活研究社 書誌情報送信サービス
  2. 国内 竹村克巳 (1950) 『ティラァズ・ブック : 紳士服の裁断と縫方』 緑屋洋装研究所 書誌情報送信サービス 三つ揃いの縫製方法が分かりやすい絵をベースに解説されている
  3. 国内 染葉秋宏, 太田三子夫 (1951) 『男子服の縫い方』 服装技能協会 書誌情報送信サービス