生地
背広に使う生地の選び方、ウールの梳毛と紡毛、代表的な毛織物の種類、目付の見方。綿と麻についても触れる。
選び方
生地は次の観点から絞り込んでいく。
着用するシーズン — 目付と素材に直結する。夏服で頻繁に洗濯するなら、綿や麻も選択肢に入る。
着用する場面 — ビジネスで使うなら、濃紺やチャコールグレーといったダークカラー、あるいはミディアムグレーなどの落ち着いた色が無難である。私服であれば自由に選んでよい。
柄合わせ — 無地、綾り柄、細い縞であれば柄を合わせる必要がなく、差し込みも縫製も楽になる。チェックや間隔の広いストライプは柄合わせを考えなければならず、難易度が上がる。
どういった服か — 礼服にカジュアルな生地は選べない。コールズボンならコール地を使う、といった制約もある。
色は、ネクタイ・ワイシャツ・靴との調和も踏まえて決める。
梳毛と紡毛
羊毛の糸には梳毛糸と紡毛糸の2種類がある。
| 原料繊維 | つくり方 | |
|---|---|---|
| 梳毛糸 | 長い繊維 | 梳りながら紡ぐ |
| 紡毛糸 | 短い繊維 | 絡めて撚り合わせ、一本の糸に紡績する |
この違いが、生地の表面の見え方と風合いを分ける。梳毛糸の生地は織り目がはっきりと出て、紡毛糸の生地は毛羽が立って柔らかくなる。
代表的なウール生地
| 生地 | 糸 | 織りと仕上げ | 用途 |
|---|---|---|---|
| ウーステッド Worsted | 梳毛 | 平織、綾織など各種 | 梳毛の毛織物の総称 |
| サージ Serge | 梳毛 | 二二斜文。綾の斜めの線がはっきり出る | 通年。セルともよぶ |
| ポーラ Poral、フレスコ | 梳毛(強撚を3本撚り) | 平織 | 夏物 |
| トロピカル | 梳毛(細い糸) | 平織または綾織の薄手 | 夏物 |
| サキソニー | 紡毛 | 仕上げに軽く縮絨 | 柔らかく手触りがよい。メルトンとフランネルの中間 |
| ミルド・ウーステッド(綾メルトン) | 梳毛 | 織ったあと縮絨・起毛 | メルトンのような見た目にしたもの |
| フランネル Flannel | 紡毛 | 平織・綾織、仕上げに軽く縮絨 | メルトンより薄く柔らかい |
| メルトン Melton | 紡毛 | 平織・綾織、仕上げに強く縮絨 | 厚手で硬め。オーバーコートなど防寒着 |
メルトンは毛羽が立っていて地合が見えない。フランネルとメルトンは仕上げの縮絨の強さの違いであり、その中間がサキソニーにあたる。
目付
目付とは生地の単位面積あたりの重さである。平方メートルあたりで示すこともあるが、ウール生地はダブル幅(140〜150cm)であることが多いため、その幅を前提として 1m あたりのグラム(g/m)や 1yd あたりのオンス(oz/yd)で示すことが多い。
目安は生地の種類によって変わるが、厚みの程度を測るうえで重要な手がかりになる。
背広地はおおよそ 180 g/m² が薄地、350 g/m² が厚地にあたり、標準的なものは紺サージに使われる 270 g/m² 程度である(大野一郎 1968, p.45)。
以下は資料に載っている値と、それを共通の前提で揃えた値である。括弧内が換算値で、括弧の無い値が資料に載っているとおりの値である。換算の前提は次のとおり。
- 長さ1ヤード=0.9144 m、1 oz=28.35 g、1 lb=453.6 g
- 幅の記載がない資料はダブル幅 1.5 m とみなす(1 oz/yd = 20.7 g/m²)
- 幅の記載がある資料はその幅で計算する
| 生地 | 資料の値 | g/m² | oz/yd | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 背広地(薄地) | 180 g/m² | 180 | (8.7) | (大野一郎 1968, p.45) |
| 背広地(標準・紺サージ) | 270 g/m² | 270 | (13.1) | (大野一郎 1968, p.45) |
| 背広地(厚地) | 350 g/m² | 350 | (16.9) | (大野一郎 1968, p.45) |
| 春夏物 | 10〜11 oz/m | (189〜208) | (9.1〜10.1) | (毛製品の基礎知識 1959, p.180) |
| 第一種サージ規格 | 176〜216 g/m² | 176〜216 | (8.5〜10.5) | (矢橋彦四郎 1937, p.65) |
| サージ | 8〜16 oz/yd | (165〜331) | 8〜16 | (毛製品の基礎知識 1959, p.323) |
| サージ(薄手・合着用) | 8.3 oz/yd | (172) | 8.3 | (毛製品の基礎知識 1959, p.324) |
| サージ(中肉) | 11〜11.5 oz/yd | (227〜238) | 11〜11.5 | (毛製品の基礎知識 1959, p.324) |
| サージ(冬向けの厚手) | 12.5〜13 oz/yd | (258〜269) | 12.5〜13 | (毛製品の基礎知識 1959, p.324) |
| ミルド・サージ(薄地) | 11.5〜12 oz/yd | (238〜248) | 11.5〜12 | (毛製品の基礎知識 1959, p.325) |
| ミルド・サージ(中肉) | 12.5〜13 oz/yd | (258〜269) | 12.5〜13 | (毛製品の基礎知識 1959, p.325) |
| トロピカル | 7〜10 oz/yd | (145〜207) | 7〜10 | (毛製品の基礎知識 1959, p.333) |
| ポーラ | 13〜15 oz/yd | (269〜310) | 13〜15 | (毛製品の基礎知識 1959, p.337) |
| フレスコ(幅60.5in) | 0.84 lb/m | (248) | (12) | (矢橋彦四郎 1937, p.89) |
| フレスコ(幅60.0in) | 0.77 lb/m | (229) | (11.1) | (矢橋彦四郎 1937, p.89) |
| ウーステッド・スーチング(幅144〜146cm) | 370〜630 g/m | (255〜434) | (12.3〜21) | (矢橋彦四郎 1937, p.107-109) |
| メリノー梳毛糸コーチング(幅142〜146cm) | 380〜810 g/m | (264〜562) | (12.8〜27.2) | (矢橋彦四郎 1937, p.110) |
| ウーステッド・フランネル | 12 oz/yd | (248) | 12 | (毛製品の基礎知識 1959, p.326) |
| ウーステッド・フランネル | 14.5〜15 oz/yd | (300〜310) | 14.5〜15 | (毛製品の基礎知識 1959, p.326) |
| ウーステッド・フランネル | 16〜16.5 oz/yd | (331〜341) | 16〜16.5 | (毛製品の基礎知識 1959, p.326) |
| 梳毛織物(夏向け) | 358 g/m² | 358 | (17.3) | (富田輝夫 1952, p.69) |
| 梳毛織物(冬向け) | 595 g/m² | 595 | (28.8) | (富田輝夫 1952, p.69) |
| サキソニー | 291 g/m² | 291 | (14.1) | (矢橋彦四郎 1937, p.125) |
| サキソニー | 366 g/m² | 366 | (17.7) | (矢橋彦四郎 1937, p.125) |
| 毛フランネル(薄地) | 196 g/m² | 196 | (9.5) | (富田輝夫 1952, p.69) |
| 毛フランネル(厚地) | 286 g/m² | 286 | (13.8) | (富田輝夫 1952, p.69) |
| メルトン | 21 oz/yd | (434) | 21 | (毛製品の基礎知識 1959, p.361) |
| 純毛メルトン(幅56in) | 1.2 lb/m | (383) | (18.5) | (矢橋彦四郎 1937, p.138) |
| 外套地 | 1.5〜2 lb/m | (454〜605) | (21.9〜29.3) | (毛製品の基礎知識 1959, p.181) |
| 外套地(春用) | 540 g/m² | 540 | (26.1) | (富田輝夫 1952, p.69) |
| 外套地(冬用) | 819 g/m² | 819 | (39.6) | (富田輝夫 1952, p.69) |
| 麻布(平織) | 266 g/m² | 266 | (12.9) | (富田輝夫 1952, p.69) |
梳毛織物・毛フランネル・外套地・麻布の g/m² は、ルブネル氏の測定表による。
ウーステッドは織り方と仕上げによって幅が広い。スーチングで 255〜434 g/m²、コーチングでは 264〜562 g/m² に及ぶ。
用途ごとの目安
上の表のうち、資料が季節や用途を明記しているものを拾うと、次の帯に分かれる。
| 用途 | 目安 | 根拠となる値 |
|---|---|---|
| 夏物 | 150〜250 g/m² | トロピカル 145〜207(毛製品の基礎知識 1959, p.333)、春夏物の平均 189〜208(毛製品の基礎知識 1959, p.180)、フレスコ 229〜248(矢橋彦四郎 1937, p.89) |
| 合着 | 170〜270 g/m² | サージの薄手 172(毛製品の基礎知識 1959, p.324)、背広地の薄地 180・標準 270(大野一郎 1968, p.45) |
| 冬物 | 260〜350 g/m² | サージの冬向けの厚手 258〜269(毛製品の基礎知識 1959, p.324)、背広地の厚地 350(大野一郎 1968, p.45) |
| 外套 | 380〜610 g/m² | 純毛メルトン 383(矢橋彦四郎 1937, p.138)、メルトン 434(毛製品の基礎知識 1959, p.361)、外套地 454〜605(毛製品の基礎知識 1959, p.181) |
用途の境目は重なる。ポーラは夏物だが 269〜310 g/m² と冬物の帯に入り、重いものは合着にも使う(毛製品の基礎知識 1959, p.337)。目付は厚みの目安であって、着用感は織り・撚り・仕上げでも変わる。
この目安にルブネル氏の測定表は含めていない。同表の値は系統的に重い側にあり、夏向けの梳毛織物が 358 g/m²、冬向けが 595 g/m² と、上の帯を 1.5〜2 倍上回る。測定の対象とする生地が異なるとみられる。
綿と麻
背広には綿や麻も用いる。
麻は主に夏服に使う。水洗いできるが色落ちしやすいため、白や生成りを選んでおくと、色が落ちてもくたびれた印象にならない。
参考文献
- 国内 (1968) 『羊毛工業便覧』 日本羊毛産業協議会「羊毛」編集部 書誌情報送信サービス 背広地の目付の目安を参照
- 国内 (1937) 『毛織物の解説 : 見本付』 森信市 書誌情報送信サービス 各種毛織物の規格と目付を参照
- 国内 (1949) 『洋装百科辞典』 生活研究社 国立国会図書館デジタルコレクションで読む オンライン公開
- 国内 (1954) 『ワイシャツ全書』 文化服装学院出版局 書誌情報送信サービス ワイシャツの専門書
- 国内 (1959) 『毛製品の基礎知識 上巻』 日本毛麻輸出組合 書誌情報送信サービス 生地の目付の目安を参照
- 国内 (1949) 『衣服材料 訂 12版』 光生館 国立国会図書館デジタルコレクションで読む オンライン公開 各種衣服地の番手や目付の記載あり
- 国内 (1952) 『文化服装講座 被服材料篇』 文化服装学院出版局 書誌情報送信サービス ルブネル氏の測定表を所収