裁断書はそれぞれ別の製図法を載せている。同じ採寸値を入れて引き比べると、共通性や傾向が見えてくる。ここでは3冊の片前(シングルブレスト)の背広を重ね、鎌深とエリミツについては他の裁断書の式も並べる。

文献使った製図
木村慶市『裁断研究』1926年(木村慶市 1926)片前三釦 ノッチドラペル
今泉末『裁断基礎研究』1934年(今泉末 1934)。製図は木村慶市の寄稿片前二釦 ノッチドラペル
木村慶市・松原正巳『図解紳士服全書』1948年(木村慶市, 松原正巳 1948)片前三釦 ノッチドラペル

入れた寸法は 胸囲90cm、胴囲80cm、臀囲94cm、総丈69cm、袖刳45cm、内袖丈41.5cm で、どの製図にも同じ値を入れている。比べるときは製図の起点を重ね、前身頃と後身頃は製図どおりの位置関係のまま並べている。釦の数は揃えていない。見るのは身頃の形である。

同じ寸法で製図して重ねたもの。左が前身頃、右が後身頃。横の破線はB線・W線・H線。右の矢印が鎌深、上の矢印がエリミツ。前身頃にはポケットの口とダーツも入れている。
同じ寸法で製図して重ねたもの。左が前身頃、右が後身頃。横の破線はB線・W線・H線。右の矢印が鎌深、上の矢印がエリミツ。前身頃にはポケットの口とダーツも入れている。

ゆとり

製図の上で一周を測り、入れた採寸値との差を取る。脇線と脇ダーツは裁ち切り線なので、縫い代を1/4インチ(0.7cm)ずつ引いてから足す。半身では脇線で2本、脇ダーツで2本の計2.8cm、ちょうど1インチにあたる。

測り方。『図解紳士服全書』(1948)のB線とW線で示す。横棒が測る区間、丸が縫い代を引く箇所、太い線がダーツの幅。
測り方。『図解紳士服全書』(1948)のB線とW線で示す。横棒が測る区間、丸が縫い代を引く箇所、太い線がダーツの幅。
胸囲90cm胴囲80cm臀囲94cm
裁断研究+7.1cm+8.9cm+11.0cm
裁断基礎研究+7.1cm+4.6cm+7.4cm
図解紳士服全書+9.6cm+6.6cm+9.8cm

胸は『裁断研究』(1926)と『裁断基礎研究』(1934)が同じで、『図解紳士服全書』(1948)だけ2.5cm多い。胴と臀は『裁断基礎研究』がいちばん絞られ、『裁断研究』がいちばんゆるい。

『裁断研究』(1926)は裾に向かって前身頃の脇線が広がり、腰回りにフレアがかかる。

鎌深

鎌深は図の右の矢印で示した。起点からB線までである。求め方は文献ごとに違う。以下、B は胸囲の半分である。

式文献
B/3 + 3吋(7.62cm)『EO式洋服裁断法』(太田栄太郎 1917)、『丸山式洋服裁断全書』(丸山幸作 1926)、『裁断研究』(木村慶市 1926)、『図解紳士服全書』(木村慶市, 松原正巳 1948)(7.5cmと記す)
3B/8 + 2¼吋(5.72cm)『実用裁断』(長連光 1934)、『新撰現代洋服裁断製図集』(菊地寅吉 1948)、『テーラーズ・ハンドブック』(松原正巳 1948)
3B/8 + 2½吋(6.35cm)『裁断基礎研究』(今泉末 1934)
B/2『男子服裁縫の要訣』(染葉秋宏 1940)
B/3 + 8cm『図解背広講座』(江畑譲介 1961)

B にかける比は 1/3・3/8・1/2 の3通りで、比が大きいものほど定数を小さく取って釣り合わせている。胸囲90cm(B=45cm)ではどれも22.5〜23.2cmに収まるが、胸囲が離れるほど比の差が出る。

胸囲に対する鎌深。
胸囲に対する鎌深。

エリミツ

後身頃の衿ぐりの幅である。図の上の矢印で示した。重ねた3冊は次の3通りに分かれる。

裁断研究        エリミツ = B/6
裁断基礎研究     エリミツ = B/8 + 2.54   (2.54cm = 1吋)
図解紳士服全書   エリミツ = B/6 + 0.6

鎌深と同じく、B にかける比と定数の組み合わせで取る。胸囲90cm(B=45cm)では7.5cm・8.2cm・8.1cmで、比の小さい B/8 の式だけ、胸囲が小さいほど広く、大きいほど狭く出る。

胸囲に対するエリミツ。
胸囲に対するエリミツ。

参考文献

  1. 国内 太田栄太郎 (1917) 『EO式洋服裁断法』 内外織物新報社 国立国会図書館デジタルコレクションで読む オンライン公開
  2. 国内 木村慶市 (1926) 『裁断研究』 日本毛織物新報社 書誌情報送信サービス
  3. 国内 丸山幸作 (1926) 『丸山式洋服裁断全書』 日本毛織新報社 書誌情報送信サービス
  4. 国内 長連光 (1934) 『実用裁断 改訂3版』 洋服工学協会 書誌情報送信サービス 昭和7 (1932)版も存在する
  5. 国内 今泉末 (1934) 『裁断基礎研究』 松崎洋服店技術部 書誌情報送信サービス ノータックズボンの製図が欠落している
  6. 国内 染葉秋宏 (1940) 『男子服裁縫の要訣』 文化服装学院すみれ会出版部 書誌情報送信サービス
  7. 国内 木村慶市, 松原正巳 (1948) 『図解紳士服全書』 生活研究社 書誌情報送信サービス
  8. 国内 菊地寅吉 (1948) 『新撰現代洋服裁断製図集』 服装生活社 書誌情報送信サービス 当時の各テーラーの製図をまとめた書籍
  9. 国内 松原正巳 (1948) 『テーラーズ・ハンドブック』 生活研究社 書誌情報送信サービス 婦人服の製図も含まれる
  10. 国内 江畑譲介 (1961) 『図解背広講座』 文化服装学院出版局 書誌情報送信サービス